映画のリアリティがあまりにも完璧であるため、インターネット上やSNSでは長年「『ショーシャンクの空に』は実話に基づいたストーリーなのではないか」という言説が定期的に浮上します。結論から言えば、本作は完全なフィクションであり実在の事件そのものではありません。
しかし、物語の骨格には歴史的な脱獄事件や実在の刑務所構造が深く影響を与えています。最も有名な類似例が、1962年に起きた「アルカトラズ刑務所脱獄事件」です。フランク・モリスとアングリン兄弟は、スプーンや爪切りを加工した粗末な道具で通気口のコンクリート壁を数カ月かけて掘り進め、髪の毛で作った偽の頭部をベッドに置いて看守を欺き、サンフランシスコ湾の冷たい海へと脱走しました。スティーヴン・キングがこの実在の脱出手口からインスピレーションを得ていたことは間違いありません。
また、ロケ地として使用されたオハイオ州マンスフィールドにある「オハイオ州立改革所(Ohio State Reformatory)」は、ゴシック様式の威圧的な建築で知られ、かつて実際に過酷な環境下で囚人たちが収容されていた歴史的建造物です。現在は映画の聖地として保存され、年間数万人規模の観光客が訪れる名所となっています。
そしてもう一つの驚くべき歴史的事実は、本作が1994年の劇場公開時に興行的な「大惨敗」を喫していたという点です。同年に公開された対抗馬には、世界的な社会現象となった『フォレスト・ガンプ/一期一会』や、クエンティン・タランティーノ監督の『パルプ・フィクション』、さらには大ヒットアクション『スピード』などがひしめき合っていました。
タイトルが地味で内容が刑務所モノという暗い印象を与えたこと、主演が派手なアクションスターではなかったことなどが災いし、全米初週末の興行成績はわずか72万ドル程度でした。しかし、アカデミー賞で作品賞・主演男優賞・脚色賞など7部門にノミネートされたことで状況が一変します。その後、ワーナー・ブラザースが仕掛けたVHSビデオのレンタル展開と、米ケーブル局「TNT」による頻繁なテレビ放映によって口コミが爆発。「一度観たら絶対に忘れられない映画」として家庭用ビデオ市場で全米トップの貸出数を記録し、長い年月をかけて世界最高の評価を勝ち取るという、映画ビジネス史上最大の逆転劇を演じたのです。