画数だけでなく、「初見で絶対に読めない」という難読性の観点からも、漢字の迷宮は果てしなく広がっています。日本漢字能力検定(漢検)の最高峰である1級の合格率は例年10%前後の難関ですが、試験に出題される漢検1級 超難読漢字でさえ、文字の世界全体から見れば氷山の一角に過ぎません。
検定試験に出題される代表格には以下のようなものがあります。
・驫麤(ひょうそ):馬が3つの「驫(ヒョウ=群れ走る)」と、鹿が3つの「麤(ソ=あらい)」。馬や鹿が群れをなして走り、砂塵が巻き上がる様子を描写した文字。
・齉(ノウ):前述の36画文字で、鼻炎などで鼻声になる状態を指す。
・龘(トウ):龍を3つ重ねた48画の文字で、龍が群がり天を飛ぶ様を表す。
さらに日常を離れ、戸籍や歴史記録に埋もれた日本の難読名字 難しい漢字に目を向けると、漢字の持つ多層的な暗号性に驚かされます。文字そのものが難解なケース(例:岩手県に実在する「躑躅森(つつじもり)」、計54画)もあれば、日常的な漢字の組み合わせに高度な言語遊戯が施されたケース(例:「八月一日(ほづみ)」=稲穂を摘む時期、「小鳥遊(たかなし)」=天敵の鷹がいないため小鳥が遊べる)も存在します。
これらの文字体系は、単に相手を困惑させるための道具ではありませんでした。古代から中世にかけて、知識層が自己の教養の深さを示すサインであり、神仏への祈祷において言霊(ことだま)の呪力を増幅させるための「視覚的呪術」でもあったのです。