神社や各家庭の神棚において、神饌(お米、水、塩など)とともに榊が必ず供えられる背景には、単なる儀礼的装飾を超えた明確な宗教的根拠が存在します。その決定的な理由は、榊が神々の降臨する媒介物である「依り代(よりしろ)」の役割を担っているからです。
語源説において定説とされているのは、主に以下の2つの潮流です。
第1に、神域と人間が暮らす現世との境界を示す「境の木(さかいのき)」が転じたとする説です。古来、鬱蒼とした鎮守の森において、常緑の神聖な樹木は聖域と俗界を明確に分かつ結界としての意味を持っていました。神棚に榊を一対(左右)立てて祀る所作は、その空間が神聖な結界の内側であることを物理的・精神的に宣言する行為に他なりません。
第2に、四季を通じて青々とした葉を落とさない常緑樹の強靭な生命力を讃えた「栄える木(さかえるき)」に由来するという説です。冬季に多くの落葉樹が葉を失い生命の衰退を連想させるのに対し、冬でも緑を湛え続ける常緑広葉樹は、不変の生命力と繁栄の象徴として神道における「常世(とこよ)」の概念と深く結びついてきました。
また、神道の厳格な儀式において用いられる「玉串(たまぐし)」も榊を中核として構成されています。玉串拝礼の作法では、小枝に「紙垂(しで)」や麻を取り付けたものを神職や参拝者が両手で捧げ持ち、時計回りに半回転させて根元を神前に向けて供えます。これは、自身の真心や敬意を榊という依り代に宿らせて神へと捧げる神事の真髄であり、千年以上変わることなく継承されている神道の原初的プロトコルです。