いまや主要な観光地はどこへ行っても人波が途切れない。京都の路地は埋め尽くされ、箱根の湯坂道は車列で軋んでいる。そんな息苦しさの対極にあるのが、群馬県みなかみ町の最深部に位置するこの地だ。利根川の源流域、標高800メートルを超える高原は、夏でも吹き抜ける風が驚くほど涼しく、冬には容赦のない豪雪が世界を真っ白に覆い尽くす。
周囲にはネオンサインもなければ、客引きの声もない。聞こえてくるのは沢のせせらぎと、時折枝を揺らす野鳥の羽音くらいだ。この隔絶感こそが、現代の旅人にとって最大の贅沢に化けた。日常のタイムラインを遮断し、ただ自分の呼吸のリズムを取り戻す。そのための余白が、ここには手つかずのまま残されている。