「好きが高じて」という表現は、「ある事柄への好意や熱中が極端に強くなり、当初の想定を超えた結果や行動に結びつくこと」を意味する慣用句である。今日ではポジティブな挑戦やキャリアアップの動機として語られるケースが主流だが、言語学的な成り立ちを深掘りすると、やや趣が異なる。
動詞「高じる(こうじる)」の語源は、「程度が甚だしくなる」「高まる」という意味から派生し、古典期から近代にかけては「病気が高じる」「悪ふざけが高じる」「猜疑心が高じる」といった形で、望ましくない事態の激化を表現する際に多用されてきた。つまり、自分自身の理知的なコントロールを失い、歯止めが利かなくなった「過剰な状態」を警告するニュアンスが根底にある。
また、高じるの漢字表記と使い分けにも注意を払う必要がある。一般的には「高じる」と表記されるが、文学作品などでは感情の激しい高まりを示す「昂じる(昂る)」、あるいは病状が急激に悪化する様を表す「劇じる(劇化する)」の文字が当てられる例も見られる。常用漢字表の制約や現代の公用文表記としては「高じる」が標準的だが、原義には「昂奮による暴走」や「病理的な深まり」という生々しい語感が張り付いている事実は見落とせない。