退職時に「会社都合ではなく、一身上の都合として退職届を出してほしい」と執拗に迫られた経験を持つ人は少なくありません。労働問題の相談窓口や労働局に寄せられるトラブルの中でも、この退職理由のすり替えは代表的な類型です。では、なぜ企業は頑なに会社都合を認めたがらないのでしょうか。
最大の理由は、国から支給される「雇用関係助成金」の受給資格剥奪ペナルティにあります。中小企業が広く利用している「キャリアアップ助成金」や「雇用調整助成金」など多くの公的助成金には、「支給申請前の一定期間内に、事業主都合による解雇・離職(退職勧奨を含む)を出していないこと」という不支給要件が厳格に定められています。
仮に1人でも会社都合解雇や退職勧奨を行った事実が雇用保険データ上で処理されると、会社は進行中の助成金受給が打ち切られるだけでなく、その後数年間にわたって助成金の申請資格を失います。その金額は数百万円から数千万円規模に上るため、経営陣や人事担当者は「会社都合にするとあなたの次の転職で不利になる」「温情で自己都合にしてあげる」といった虚偽の説明を弄し、強引に「自己都合の退職届」にサインさせようとする構図が存在します。