神門(しんもん)という名が示す通り、伝統医学においてここは精神を安定させ、不眠や焦燥を鎮める最重要拠点として扱われてきた。しかし、近年の神経解剖学のアプローチは、この古典的なツボに極めて具体的な解釈を与えている。耳介、とりわけ神門が位置するエリアには、脳神経のなかでも自律神経のコントロールに直結する迷走神経の枝が密に分布しているのだ。
指や圧迫具でこの部位に適度な刺激を加えると、迷走神経を介して脳幹へとシグナルが送られる。結果として副交感神経系が賦活され、血管が拡張し、心拍のゆらぎが整う。鍼灸の臨床現場でも、パニック症状の緩和や急性期の不安抑制に神門が第一選択となるケースは多い。「気の流れ」という抽象的な言葉の裏側に、確かな神経反射の回路が存在することを現代医学は次々と証明している。