下肢の運動連鎖において、大腿筋膜張筋は単独で暴走するわけではありません。その背景には、隣接する主力筋である中殿筋との力学的パワーバランスの崩壊が存在します。
中殿筋との位置関係と作用を比較すると、両者は骨盤の側面に並び、股関節の外転(脚を外に開く動作)を協調して行っています。中殿筋(特に後部線維)が骨盤を後方から支えて外旋・外転を促すのに対し、大腿筋膜張筋は前外側から屈曲・内旋・外転を担います。骨盤の水平を保つスタビライザーとして本来主役を務めるべき中殿筋が筋力低下を起こすと、身体は倒れまいとして大腿筋膜張筋を過剰に収縮させる「代償動作」を選択します。
この代償がランニングや長時間の歩行で反復された結果として発症するのが、一般に「ランナー膝」と称される腸脛靭帯炎です。過緊張した大腿筋膜張筋によって引っ張られた腸脛靭帯が、膝の曲げ伸ばし(屈曲約30度前後)に伴って大腿骨外側上顆と呼ばれる骨の隆起と激しく擦れ合います。摩擦の回数が限界値を超えたとき、局所に微小断裂や無菌性炎症が引き起こされ、歩くことすら困難な激痛へと発展します。