ネット上の掲示板やSNSで定期的に話題となるのが、「法定12ヶ月点検は義務だが罰則がないため、実質的に受ける必要はない」という主張です。この法定12ヶ月点検義務と罰則の関係について、法的な事実関係と実際の現場運用を照らし合わせると、危険な落とし穴が浮かび上がってきます。
法的な事実として、自家用乗用車(白ナンバー・黄色ナンバー)の場合、法定12ヶ月点検を受けなかったとしても、直ちに道路交通法違反のように反則金が科されたり、違反点数が加算されたりすることはありません。運送事業者が使用する緑ナンバーのトラックやタクシーなどには事業停止等の行政処分が存在しますが、一般ユーザーに対する直接の処罰規定が設けられていないのは事実です。この点のみを切り取って法定12ヶ月点検やらなくていい理由として喧伝されているのが実情です。
しかし、自動車業界関係者や法曹関係者が口を揃えて警告するのは、行政処分以外の実質的なペナルティです。法定12ヶ月点検受けないとどうなるのか、最大の盲点となるのが「メーカー保証の消滅」です。
トヨタ、ホンダ、日産をはじめとする各自動車メーカーの保証規定には、メーカー新車保証適用条件として「法令およびメーカーが指定する定期点検整備が実施され、定期点検整備記録簿(メンテナンスノート)に適切な記載・捺印があること」が明確に定められています。もし点検を怠っていた期間にエンジンやトランスミッション、電子制御系などの高額部品が自然故障した場合、メーカー側は「適切な整備を怠ったことに起因する不具合」と判断し、本来なら無償で修理されるはずの保証修理を拒否する正当な権利を有しています。
近年増加しているハイブリッド車やEV、先進運転支援システム(ADAS)を搭載した車両では、基幹ユニットのアッセンブリー交換費用が50万円から100万円を超えるケースも珍しくありません。わずか1万〜2万円前後の点検費用を惜しんだ結果、巨大な修理費用を全額自己負担することになる経済的リスクは無視できません。
さらに、万が一の車両火災やブレーキ故障による重大事故が発生した場合、定期点検記録簿に記録がないことは、民事裁判における過失割合の算定で所有者側に「整備不良」「車両管理責任の懈怠」として極めて不利に作用する現実があります。