夏まゆみさんががんの診断を受けながらも、公の場や愛する教え子たちにその事実を一切伝えなかった背景には、彼女が貫き通した「師匠としての絶対的な矜持」がありました。モーニング娘。やAKB48の立ち上げ初期から厳しくも温かい指導を注いできた夏さんは、常に生徒たちの前で「揺るぎない道標」であり続けることを自らに課していたのです。
当時の報道や近親者の回顧録によれば、夏さんは「生徒たちが私の体を気遣って遠慮したり、ステージ上で集中を欠くようなことがあっては絶対にいけない」という信念を崩しませんでした。もし自分が重篤な病に侵されていると知れ渡れば、テレビ出演やコンサートの現場で教え子たちが感情を乱してしまう。エンターテインメントの第一線で戦う表現者たちに、余計な心のブレを生じさせたくないという配慮が、徹底した箝口令へと繋がりました。
訃報が流れた直後、元モーニング娘。の飯田圭織さんや矢口真里さん、元AKB48の前田敦子さんや高橋みなみさんらをはじめとする教え子たちは、異口同音に「まったく知らされていなかった」「信じられない」と茫然自失のコメントを発表しました。現場で常に背筋を伸ばし、妥協を許さないプロの背中を見せ続けてくれた師匠だからこそ、弱った姿を見せて同情を買うことを何よりも嫌ったのです。この徹底した自己節制こそが、夏まゆみという表現者の神髄であったと言えます。