主治医から選択を突きつけられた際、家族が真っ先に抱く疑問が「管を入れれば、あとどのくらい生きられるのか」という予後の問題です。臨床現場の追跡調査や老年医療の知見を総合すると、経鼻経管栄養を導入した後の余命は、数日から数週間というごく短期から、半年〜1年以上に及ぶ長期まで極端に二極化します。平均値という一括りの数字だけで実態を捉えることは極めて危険です。
この生存期間の決定的な分岐点は、「導入の目的が急性期の回復支援なのか、それとも不可逆的な終末期の延命なのか」にあります。
脳梗塞の急性期や肺炎治療直後など、嚥下(飲み込み)機能が一時的に低下しているケースでは、脱水や低栄養を回避して体力を維持するために経鼻経管栄養が用いられます。この場合、嚥下リハビリテーションと並行して数週間から数カ月でチューブを抜去し、再び経口摂取へ復帰できる事例も少なくありません。
一方で、全身の筋肉が衰弱した超高齢者や多臓器不全の兆候が見られる終末期、あるいは重度の老衰期における導入では、状況が一変します。日本老年医学会などの臨床報告によると、老衰や認知症の末期患者に人工的水分・栄養補給を実施しても、生命予後(生存期間)を有意に延長させる効果はほとんど認められないことが明らかになっています。栄養素を流し込んでも、衰弱しきった内臓がそれを処理・吸収しきれず、余命は1ヶ月〜3ヶ月前後に留まる例が頻発します。心肺機能だけが保たれている場合は1年を超える長期生存に至ることもありますが、その期間は自発的な覚醒や会話が失われた状態が続くケースが圧倒的多数を占めます。