物語の舞台は、春の北山です。当時18歳前後の光源氏は、患っていた瘧病(わらわやみ=マラリアのような熱病)の加持祈祷を受けるため、高僧を訪ねて京都の北山へと足を運びました。その静養の合間、ふと立ち寄った粗末な庵の柴垣から中を覗き見たこと(=垣間見)が、運命の出会いの始まりです。
そこで光源氏の目に飛び込んできたのは、十歳前後のあどけない少女(後の紫の上)でした。しかし、光源氏が心を奪われた決定的な理由は、単なる少女の愛らしさだけではありません。彼が密かに激しい恋慕を抱いていた継母・藤壺の宮に、少女の顔立ちや雰囲気が生き写しだった点にあります。実はこの少女は、藤壺の宮の兄である兵部卿宮の実の娘でした。
決して手の届かない藤壺の宮への思慕と喪失感を埋める存在として、光源氏は幼い若紫を自らの手で理想の女性へと育て上げることを決意します。この源氏物語における若紫のあらすじと背景を理解しておくことは、登場人物たちの細やかな心理描写や会話のニュアンスを読み解く上で欠かせない前提知識です。