全10作以上におよぶ長編・短編が連なる加賀恭一郎シリーズにおいて、読者が最も頭を悩ませるのが「どの順番でページをめくるべきか」という問題です。結論から言えば、初読であれば基本は「刊行順」、あるいは人形町編の幕開けである『新参者』からスタートするルートが最も満足度を高めてくれます。
刊行順に読む最大のメリットは、加賀恭一郎という一人の男の成長と人生の変遷をリアルタイムで追体験できる点にあります。大学生として初登場した『卒業』、教職を経て警察官となり、練馬署、練馬西署、警視庁捜査一課、そして日本橋署へと異動を繰り返す彼の足跡は、作者である東野圭吾の作風の深化と見事に重なり合います。
一方で、「まず絶対に失敗しない傑作から味わいたい」という読者には、第8作にあたる『新参者』からのスタートを強く推薦します。日本橋・人形町を舞台にした連作短編集であり、下町の温かい人情と緻密なアリバイ崩しが見事に調和した本作は、単体としての完成度がずば抜けて高いためです。『新参者』で加賀の飄々とした佇まいと優しさに魅了されてから、原点である『卒業』や『眠りの森』に遡る読み方も、多くの読者が太鼓判を押す王道ルートとなっています。