「片耳が聞こえなくても、もう片方が聞こえるなら問題ないだろう」――この無理解こそが、片耳難聴者を最も苦しめている心理的バリアです。国内有数の片耳難聴当事者コミュニティ「きこいろ」をはじめとするプラットフォームに寄せられる一次情報には、外見からは決して伝わらない凄惨な日常の苦難が綴られています。
「居酒屋や騒がしいオフィスでの会議では、音の方向感覚(音源定位)が失われ、誰が話しているのか全く判別できない」「聞こえない側から同僚に声をかけられても気づけず、『無視された』と陰口を叩かれ人間関係が破綻した」「音を脳内で補完しようと神経をすり減らすため、午後になると激しい頭痛と倦怠感に襲われる」。こうした当事者の証言は、片耳の失聴が決して軽微な不便などではなく、労働能力と社会生活を著しく毀損する重大な障害であることを雄弁に物語っています。
それにもかかわらず、公的な福祉窓口や医療機関の現場では、制度の縦割りによる情報の断絶が起きています。取材に応じた障害年金専門の社会保険労務士は、次のように現場の矛盾を指摘します。
「耳鼻科の主治医に『障害年金や手当金の診断書を書いてほしい』と相談したところ、医師から『片耳だけなら手帳も年金も出ないよ』と即座に断られ、申請を諦めかけていた相談者が非常に多いのが実態です。医師は身体障害者手帳の基準(医学的福祉基準)には精通していても、厚生年金保険法に基づく障害手当金の存在や詳細な認定基準(80dB以上・症状固定)までは把握していないケースが多々あります。制度を知らない医師の不用意な一言で、受給できたはずの100万〜150万円を失ってしまう悲劇が全国で頻発しています」