アクセスの良さも、忙殺される現代人の駆け込み寺として機能している大きな要因だ。新宿駅からJR中央本線の特急「あずさ」や「かいじ」に乗れば、甲府駅を経て竜王駅までおよそ1時間半。駅から歩いて数分の住宅街に突如として現れるそのギャップに、最初は誰もが戸惑う。
近年、全国各地にサウナ付きラグジュアリーホテルやグランピング施設が林立した。しかし、それらの均一化されたサービスに食傷気味になった感度の高い層が、いま向かっているのは「本物の効能」を持つ鄙びた湯治宿だ。装飾を削ぎ落とした素朴な空間、気取らないスタッフの案内、そして何十年も変わらず湧き続ける名湯。そこにはアルゴリズムが弾き出した流行とは無縁の、確固たる本質が息づいている。
館内の大広間には、湯上がりに座布団を枕にして爆睡する人々の姿がある。Wi-Fiもスマホも忘れ、ただ横たわって体を休める。この飾らない空気感こそが、張り詰めた都市生活者の防御壁を溶かしていく。