羊肉を理解する上で最初におさえるべき土台が、羊肉の月齢と分類基準です。一般的に流通現場では「月齢」を目安に呼称が分けられていますが、オーストラリアやニュージーランドといった世界的な主要生産国や貿易基準においては、極めて厳格な永久歯の本数による判定基準が採用されています。
食肉流通規格における定義を整理すると、以下の3つのステージに明確に分かれます。
- ラム(Lamb):生後1年未満(およそ12か月未満)の仔羊肉。最大の識別ポイントは下あごの「永久歯が生えていない(0本)」ことです。骨格が未発達で筋肉が柔らかく、水分量が多くて脂の融点が比較的低い特徴を備えています。
- ホゲット(Hogget):生後1年以上2年未満の羊肉。永久歯が「1〜2本」生えた段階の個体を指します。国内流通量は極めて少なく、羊肉全体のわずか数パーセントにも満たない幻の肉として愛好家の間で珍重されています。
- マトン(Mutton):生後2年以上の成羊肉。永久歯が「2本を超えて完全に生え揃った」大人の羊です。牧草を長期間反芻して育つため、筋肉組織が発達して繊維が太く、赤身の色調は濃いルビー色を呈します。
ここで見落とせないのが、ホゲットとの決定的な違いです。ホゲットは、ラムが持つシルキーで瑞々しい柔らかさと、マトンが蓄える芳醇な旨味・深いコクを両立させた「いいとこ取り」の肉質を誇ります。羊肉特有の力強いアロマを持ちながら、マトンのような強い筋っぽさがなく、赤身肉としての完成度が極めて高いと評価されています。
さらに、フレンチのグランメゾンなどで珍重される最高級品として「ミルクラム(アニョー・ド・レ)」が存在します。これは母羊の母乳のみで育った生後2〜3か月前後の乳飲み仔羊で、牧草を口にしていないため獣臭が皆無に等しく、ミルクのような甘い香りと驚くほど繊細な舌触りを備えています。春先のわずかな時期にしか出回らない希少価値の高い食材です。