東京医療保健大学女子バスケ部がなぜ強いのかを論じる際、避けて通れないのが前ヘッドコーチである恩塚亨氏の存在です。アナリスト出身という異色のキャリアを持つ恩塚氏は、単なる精神論や厳しい練習量に頼る指導を完全に否定しました。コート上で起きる現象を細かく数値化し、相手のディフェンスの重心やポジショニングに応じて瞬時に最適な選択肢を導き出す「原則(プリンシプル)バスケ」を日本でいち早く体系化したのです。
当時の特番インタビューや指導者向け講習会で恩塚氏自身が語った「ミスを責めるのではなく、なぜその選択肢を選んだのかという思考のプロセスを問う」という言葉に象徴されるように、同部では指導者が怒鳴る光景が一切ありません。選手がコート上で直面する無数のシチュエーションに対し、5人全員が共通の判断基準を持ちながら自律的にプレーするスタイルは、相手ベンチのスカウティングを無力化する破壊力を誇りました。
さらに、徹底した「心理的安全性」の担保がパフォーマンスを極限まで引き上げました。従来の大学スポーツ界に根強く残っていた過度な上下関係や懲罰的練習を廃止し、下級生であっても自由に意見を発信できるフラットな対話文化を醸成。この組織改革こそが、大舞台の勝負どころでも萎縮せず、楽しんでプレッシャーを跳ね返す驚異的なメンタリティを生み出した決定的な要因です。