吾峠氏といえば、単行本のカバー裏や巻末コメントに必ず登場する「メガネをかけたワニ」の自画像が象徴的だ。
なぜワニなのか。「読者をがっちり掴んで離さない」という創作上の意気込みが由来とされるこのキャラクターは、著者本人の照れ隠しであり、同時に自己主張を最小限に抑えるための知恵でもあった。顔出しをしてタレント的に振る舞う漫画家が増える現代において、あえて記号化されたキャラクターの陰に隠れる選択は、作品第一主義の姿勢を雄弁に物語っている。
視覚的な素顔を隠し、キャラクターというフィルターを通すことで、彼女は読者との間に心地よい距離感を保ち続けてきたのだ。