おばあさんに諭された少年は、できるだけ上を見ないように、下を向いて日常を過ごそうと努めます。ご飯を食べる時も、遊んでいる時も、視線を上に向けないように意識し続ける少年。しかし、「見ないようにする」という意識そのものが、天井の存在感を際立たせていきます。
そして物語の終盤、ついに不可避の瞬間が訪れます。ふとした拍子に、少年は顔を跳ね上げ、高い天井の太い梁の上を直視してしまうのです。
そこにいたのは、白塗りの能面のような無機質な表情を浮かべ、梁の上から身を乗り出してこちらを真下に見下ろしている異様な大男の顔でした。そして最後の見開きページにおいて、その男は口元を歪めて読者に向かってこう告げます。
「みちゃったね」
この瞬間に物語は暗転し、「いまも いる」という決定的な絶望を残して幕を閉じます。少年の主観視点から始まった物語が、最後の1コマで「絵本を読んでいる読者自身」と天井の怪異が真正面から目を合わせる構図へと反転する仕掛けです。怪異の正体は作中で一切説明されません。妖怪なのか、過去の死者の残留思念なのか、あるいは少年の恐怖が生み出した幻影なのか。正体を特定しないまま「そこに確実に存在している」という事実だけを突きつける手法が、読後の底知れぬ後味の悪さを生み出しています。