松嶋屋の真髄を語る上で欠かせないのが、歌舞伎屈指の大作『菅原伝授手習鑑』である。松竹株式会社が手掛ける大舞台において、この名作の上演は常に特別な熱気を帯びる。仁左衛門が演じる菅丞相の神々しい気品と、それに寄り添う孝太郎の情感あふれる女方の芝居。二人が舞台上で交わす視線一つに、客席の息が止まるほどの緊張感が走る。
父子だからこそ通じ合う暗黙の呼吸がある。セリフの間合い、衣擦れの音、感情の昂ぶり。仁左衛門から孝太郎へと手渡される芸のバトンは、教科書的な伝承ではなく、血の通った命のやり取りそのものだ。古典の型を守りながら、現代の観客の胸を激しく揺さぶる松嶋屋の芸は、劇場という空間で奇跡のような瞬間を幾度も生み出してきた。