よさこい踊りの代名詞とも言える「鳴子(なるこ)」。木製の板に可動式の拍子木が取り付けられたこの道具には、農業国・日本ならではの生活の知恵が宿っています。
元来、鳴子は田畑を荒らす雀や野鳥を追い払うための「鳥威し(とりおどし)」として使われていた農具でした。縄を引くと板がぶつかり合って「カチカチ」と音を立てる仕組みを、武政英策氏が踊りの打楽器として転用したのです。
この転用には極めて合理的な理由がありました。阿波おどりが「素手」のしなやかな手振りで魅せるのに対し、よさこいは「誰でも参加でき、大人数でも音が揃う視覚的・聴覚的インパクト」を必要としていました。鳴子を持つことで、ダンス経験のない初心者でも自然とリズムを刻むことができ、集団としてのダイナミズムを生み出すことに成功したのです。伝統的な鳴子は「朱色(朱塗り)の台に、黒と黄色のバチ」という配色が基本でしたが、現在ではチームカラーに合わせた多彩なデザインが定着しています。
また、踊り子たちが身にまとう衣装にも深い演出意図が込められています。法被(はっぴ)や着物をベースにしながらも、現代のストリートダンスや劇団の舞台衣装を取り入れたハイブリッドなデザインが主流です。特に人気を集めるのが、演舞のクライマックスで行われる「早変わり(衣装のどんでん返し)」です。一瞬で色鮮やかな着流しや羽織へと変化する仕掛けは、観客の視線を引き込み、非日常の祝祭空間を劇的に盛り上げる重要な役割を果たしています。