鹿児島県の方言文化を象徴する言葉として広く定着している「おじゃったもんせ」。公式の鹿児島弁ネット辞典や『47都道府県方言百科辞典』の記録によると、この表現は「いらっしゃいませ」「ようこそおいでくださいました」という来訪者への最上級の歓迎を意味します。店舗で客を迎える第一声として使われるだけでなく、家庭に招いた客人を温かく迎え入れる際にも重用される伝統的な鹿児島弁の挨拶です。
興味深いのはその語源と歴史的背景にあります。南端の薩摩地方にありながら、言葉の核にはかつての京の都言葉が息づいています。言語構造を分解すると、以下の2つの要素から成り立っていることが分かります。
- 「おじゃ(おじゃる)」:古語の「あり」「居り」「行く」「来る」の尊敬語である「御座る(おじゃる)」が転訛したもの。中世から近世にかけて貴族や上方で使われていた言葉が、薩摩の地で大切に保存・継承された言語学的名残です。
- 「たもんせ」:相手に懇願・依頼する「頼み申す(たのみもうす)」あるいは「給もせ(たもせ=〜してください)」が変化した丁寧な依頼助動詞です。
すなわち、おじゃったもんせの漢字表記を試みるならば「御座ったもんせ(お出で頼み申せ)」となり、直訳すれば「どうかお越しくださいました」「よくぞいらしてくださいました」という極めて丁重な敬意を含んでいます。幕末に薩摩藩士が活躍した大河ドラマ『西郷どん』などの劇中台詞でも薩摩弁の独特な言い回しが注目を集めましたが、荒々しい武士のイメージとは裏腹に、客人を迎える挨拶には雅やかな宮廷文化の残響が宿っているのです。
なお、実際の会話におけるおじゃったもんせのイントネーションは、平坦な共通語の「いらっしゃいませ」とは大きく異なります。鹿児島弁特有の二型アクセント(語尾に近い音節が急激に高くなる規則)に従い、「おじゃった」の後半から「もん」にかけて軽く音階を上げ、最後の「せ」を柔らかく息を抜くように発音するのが、現地で耳にする本物の響きです。