「二兎を追う者は一兎をも得ず(にとをおうものはいっとをもえず)」は、二つの異なる目標を同時に達成しようと欲張ると、力が分散してどちらも失敗に終わるという警告を含んだことわざです。狩人が別々の方向へ走る2羽の野兎を一度に捕獲しようとして、結局1羽も捕らえられずに終わる情景を鮮やかに切り取っています。
日本古来の和歌や中国の故事成語と誤解されがちですが、由来・語源は西洋のことわざ・古代ローマの格言に遡ります。国立国会図書館の所蔵資料(『ローマの法・格言・法諺抄』など)や比較文化研究の記録をたどると、ラテン語圏で広く使われていた法言や処世訓がヨーロッパ各地に伝播し、明治時代の翻訳事業を通じて日本へ定着した経緯が確認できます。
英語圏においても極めてポピュラーな表現であり、代表的な言い回しとして知られるのが以下の2つです。
- If you run after two hares, you will catch neither.(2羽の野兎を追えば、どちらも捕まえられない)
- He who runs after two hares will catch neither.(2羽の野兎を追う者は、いずれも捕獲できない)
ラテン語の原典から英語の「hare(野兎)」へと引き継がれ、明治期の知識人たちが日本語の語感に合わせて翻訳した結果、日本人の思考様式に深く根付くこととなりました。
日常会話やビジネスシーンにおける代表的な使い方としては、次のような事例が挙げられます。
- 「難関資格の勉強と転職活動を完全な同時進行で進めようとしたが、二兎を追う者は一兎をも得ずになりかねないため、まずは資格取得に集中することにした。」
- 「新製品開発において、圧倒的な低価格と最高級の品質を同時に訴求しようとするのは二兎を追う者は一兎をも得ずの典型であり、ターゲット層を絞り込むべきだ。」