アフォガートの最大の醍醐味は、対極にある2つの要素が口の中で出逢う瞬間のダイナミズムにあります。キンと冷えたバニラアイスクリームと、抽出したての湯気を立てる熱いエスプレッソ。この相反する温度差が、類まれなケミストリーを引き起こします。
熱いエスプレッソがアイスクリームの表面に触れると、アイスの乳脂肪分が急速に融解し、エスプレッソ表面の微細な泡である「クレマ」と複雑に乳化します。これにより、単なるカフェラテやコーヒーフロートでは決して生み出せない、ビロードのように滑らかな口当たりと濃厚なコクが誕生します。甘味は体温に近い温度でより強く感じられ、逆に苦味や酸味は高温で際立つという人間の味覚メカニズムを、極めて精緻に刺激する構造になっているのです。
ここで知っておくべきは、アフォガートの正しい食べ方です。初心者がやってしまいがちな失敗が、運ばれてきた瞬間にスプーンで全体を激しくかき混ぜて「ドロドロの液体」にしてしまうこと。本場のバールで推奨される作法は至ってシンプルです。
まず、エスプレッソをアイスの上から一気に、あるいは半分ほど回しかけます。そして、スプーンで「溶け始めた温かいエスプレッソの層」と「まだ芯が凍っている冷たいバニラアイスの層」を同時にすくい取り、噛み締めるように味わうのが鉄則です。時間が経つにつれて徐々に混ざり合い、最後はグラスの底に残った濃厚なカフェオレ状の液体を飲み干す。この一連のグラデーションを楽しむことこそが、アフォガートの真の悦楽といえます。