信越五岳トレイルランニングレースが他の山岳レースと一線を画す最大の理由は、日本におけるトレイルランニングのパイオニアである石川弘樹氏が掲げる「トレイルランニング本来の走る歓び」を具現化したコースプロデュースにあります。過度なガレ場や危険な岩稜帯を登攀するアルパイン型の山岳レースとは異なり、豊かなブナの森、開けた高原、古道や林道など、走ろうと思えばどこまでも走り続けられるフロートレイルが連続します。
しかし、この「走れる」という特徴こそが、ランナーにとっては最大の牙となります。傾斜が急な山岳コースであれば、登りで強制的に歩きが入り、心拍数や筋肉への負荷を調整する局面が生まれます。ところが信越五岳では、走れる緩斜面が延々と続くため、無意識のうちにオーバーペースへ引きずり込まれます。前半の斑尾山周辺や黒姫高原へのアプローチで足を使い果たし、後半の妙高山麓や戸隠エリアに到達する頃には大腿四頭筋が完全に破壊されているケースが後を絶ちません。
加えて、晩夏の信越エリアは日中の厳しい残暑と夜間の急激な冷え込みという極端な寒暖差に見舞われます。日中の発汗による脱水と内臓疲労、夜露や泥濘(マッドコンディション)による足裏のふやけとスリップが容赦なく体力を削り取ります。美しくも過酷な自然環境と、休むことを許さないレイアウトが組み合わさることで、ランナー自身のペース配分能力とメンタルマネジメントが極限まで試される構造になっているのです。