「無量大数」という8文字の熟語は、最初からひとまとまりの単位として誕生したわけではありません。その起源を辿ると、13世紀末の中国・元代に数学者である朱世傑が著した『算学啓蒙』(1299年)に行き着きます。この書物において、極めて大きな数を表す単位として「無量」と「大数」は独立した別個の階位として記録されていました。
この中国数学の流れを受け継ぎ、日本において決定的な役割を果たしたのが、寛永4年(1627年)に吉田光由によって出版された『塵劫記(じんこうき)』です。『塵劫記』は江戸時代の寺子屋教育や商人の実務計算において事実上のデファクトスタンダードとなった大ベストセラーですが、実は版によって記述が大きく改訂されています。寛永8年(1631年)に出版された改訂版において、それまで別々だった「無量」と「大数」が一対の単位「無量大数」として統合され、数の頂点に据えられました。
語源の根底にあるのは、古代インドのサンスクリット語から漢訳された大乗仏教の思想です。「無量(アプラマーナ)」は文字通り「人間の智慧では測り知ることができない無限の広がり」を指し、仏の慈悲や寿命の無辺さを表現する言葉でした。そこに最高位を示す「大数」が結合したことで、単なる実用数学の記号を超え、宗教的畏怖と数学的体系が融合した孤高の単位が完成したのです。