多くの人が抱く大きな疑問の一つが、一般的な「砂漠」という漢字ではなく、三水(さんずい)の付いた「沙漠」と表記される理由です。この沙漠と砂漠の違いには、単なる言葉の揺らぎを超えた、創作者の深いこだわりが存在します。
漢字の成り立ちとして、「砂漠」は石や砂が乾ききった不毛の乾燥地帯を客観的に指す地理用語です。一方で「沙漠」の「沙」は、水辺の細かい砂や、波打ち際に洗われる柔らかな砂を意味します。加藤まさをは生前の随筆や関係者への述懐において、次のような見解を明確に残しています。
「砂漠という文字にはどこか荒涼として刺々しい響きがある。私が描きたかったのは無味乾燥な死の荒野ではなく、潤いと夢を湛えたロマンチックな世界なのだ」
砂に三水を添えることで、白砂青松の海辺が持つ湿度や、夜露に濡れる砂の柔らかさ、そして月の光に包まれた幻想美を表現しようとしました。この詩的なニュアンスへの徹底したこだわりこそが、単なる異国情緒の模倣に終わらない、日本人の心に染み入る独特の哀愁と透明感を生み出す原動力となりました。