「しば漬け食べたい」というフレーズの原点は、1988年(昭和63年)に放映された富士写真フイルム(現・富士フイルム)「フジカラー」のテレビCMに遡ります。出演していたのは、当時バイリンガルタレントの先駆けとして圧倒的な人気を誇っていた故・山口美江さんでした。
豪奢な洋館で外国人男性たちに囲まれ、華麗なドレス姿で会話を楽しむセレブリティな空間。その張り詰めた優雅さの中で、カメラに向かってどこか切迫した表情で呟いたセリフが「しば漬け食べたい……」でした。洗練された国際派美女のイメージと、泥臭い日本の伝統漬物という落差が視聴者に鮮烈なインパクトを与え、同年の『新語・流行語大賞』流行語部門・大衆賞を受賞する社会現象へと発展しました。
当時の制作関係者の証言や回顧録によると、この演出はバブル絶頂期における「見栄や背伸びに疲れた日本人の本音」をユーモラスに突く狙いがありました。海外のハイカルチャーに憧れつつも、心の奥底では素朴な和食の味を渇望している都市生活者の心理を見事に捉えたコピーライティングの傑作として、広告史にその名を刻んでいます。