1993年、原宿の裏通りにオープンしたわずか数坪のショップ「NOWHERE」からスタートしたBAPEは、カモフラージュ柄や猿のグラフィックをアイコンに、裏原ブームの頂点へと上り詰めました。限定生産による飢餓感の演出と、海外トップラッパーたちによる着用が火をつけ、商品は発売日に即完売、プレミア価格で取引される社会現象を起こします。
しかし、ブランドの急拡大とともに経営の舵取りは徐々に困難を極めていきました。過度な多角化を進めたノーウェア社は、国内外への直営店大量出店をはじめ、カフェ事業(BAPE CAFE!?)の展開など、クリエイティブへのこだわりを最優先にした過剰な先行投資を重ねます。そこへ追い討ちをかけたのが、2008年秋のリーマンショックと、裏原ストリートブームの急速な沈静化でした。
2009年期、2010年期とノーウェア社は連続して10億円規模の営業赤字を計上。金融機関からの借入金を含めた累積負債は約43億円(純負債ベースで約10億円強)に達し、債務超過寸前の極限状態へ追い込まれました。会社の借入金には代表者であるNIGO氏の個人保証が紐づいていたため、このまま会社が倒産すれば、文字通り個人資産のすべてを失い自己破産に直結する絶体絶命の危機だったのです。
この危機を打開したのが、2011年1月に発表された香港の大手セレクトショップ・アパレル企業「I.T」によるノーウェアの買収でした。I.Tはノーウェアの発行済株式の約90.27%を、わずか約2億3,000万円(約2,185万香港ドル)という驚きの安値で買い取りました。一見すると二足三文の買い叩きに見えるこの取引こそ、NIGO氏を救う綿密な事業再生スキームでした。I.T側が40億円を超える巨額負債と金融機関への返済義務を包括的に引き受ける(肩代わりする)契約を結んだことで、NIGO氏は個人破産の危機を回避し、重い足枷から解放されることになったのです。