事件が起きた特別養護老人ホームは、外部から見れば近代的な設備を備えたモデル施設だった。しかし、現場で働く介護福祉士たちの実感は大きく異なっていた。「夜勤帯は1人で数十人の入所者を担当していた。ナースコールが鳴り止まない中、徘徊や暴言に対応していると、自分が誰の何をケアしているのか感覚が麻痺してくる」。現役職員の一人は実情をそう吐露する。
介護・福祉業界全体が直面する賃金格差と慢性的な人手不足は、職員一人ひとりの心身を容赦なく削り取る。献身的なケアを志して現場に入った若者が、数年後には感情を押し殺して機械的に作業をこなすだけの状態に追い込まれる。そうした過酷な日常の歪みが、最も脆弱な立場にある入所者への攻撃性へと転化してしまう構造がそこにある。