五十嵐大介による原作漫画(小学館・全5巻)と劇場版の間には、尺の都合だけではない明確なアプローチの違いが存在します。
原作漫画では、世界各地の海洋生物学者たちのフィールドワークや、先住民族の伝承、海獣の子供たちを巡る国家や研究機関の思惑といった「群像劇・サスペンス的側面」が極めて綿密に描かれています。特にアングラードとジムの過去の確執や、他の「海の子供」に関する記録など、世界観を補強する硬質な情報が豊富に含まれています。
一方、劇場版は「主人公・安海琉花の一人称的な夏の体験」へと焦点を絞り込みました。観客に情報を理解させることよりも、琉花が味わった圧倒的な眩惑感、潮の香り、深海の冷たさ、宇宙の広がりをそのままスクリーン越しに浴びせる選択をしたのです。そのため、映画単体では省略された「なぜ海と空が現れたのか」「世界中で起きていた発光現象の科学的分析」などの詳細な文脈は、原作漫画を読むことで完璧に腑に落ちる構造になっています。