江戸時代の風俗や日常風景を網羅した喜田川守貞の『守貞謾稿』には、当時の街頭に生きた人々の生々しい姿が描かれている。本来、比丘尼とは仏門に入った女性聖職者を指す言葉だが、太平の世が続いた江戸中期以降、出家者の装いをしながら芸能や特定のサービスを提供して生計を立てる者が増えた。江戸風俗史の文脈において、彼女たちは世俗と宗教の狭間に漂う独特の存在感を放っていた。
江戸幕府が敷いた厳格な身分制度と家父長制の裏で、こうした一風変わった職業が成立したのは、体面を何よりも重んじる社会構造が存在したからにほかならない。面目を潰すくらいなら金を払ってでも恥を買い取らせるという発想は、江戸の都市文化が育んだ極めて合理的な生活の知恵であった。