全国に数多あるご当地グルメのなかでも、これほど初見のインパクトと中毒性を併せ持つ一杯は珍しい。「平塚タンメン」と呼ばれるこのスタイルは、一般的な塩味ベースの野菜タンメンとは似て非なるものだ。かんすいをほとんど使わない真っ白な素麺のような中細麺に、酢の利いたすっきりとした酸味スープ。その上にシャキシャキの生刻み玉ねぎとワカメ、あるいはメンマが鎮座する。このミニマル極まる構成こそが、平塚市民のソウルフードである。
戦後間もない復興期、創業者が「暑い夏でもさっぱりと食べられ、労働者の活力になる一杯を」と試行錯誤の末に生み出したのが始まりとされる。日本ラーメン協会の資料や地域食文化の調査を紐解いても、酢を最初からスープの主軸に据えたご当地麺は極めて異例だ。最初は酸味に驚いた客が、卓上の特製ラー油を一回し、二回しと垂らすうちに、気づけば最後の一滴までスープを飲み干してしまう。世代を超えて愛され続ける理由は、この計算され尽くした「味の引き算」にある。