2017年の元日、KDDI「au三太郎シリーズ」のお正月スペシャルCMとして突如お茶の間に鳴り響いた痛快なメロディック・パンク――それがWANIMAの「やってみよう」でした。一度聴いたら耳から離れない圧倒的な親しみやすさと、底抜けの前向きさで日本中を席巻したこの楽曲は、単なるCMソングの枠を軽々と飛び越え、2026年の現在に至るまで学校の運動会や卒園式、新生活のアンセムとして不動の地位を築いています。
しかし、この名曲が実は世界中で歌い継がれてきた伝統的な童謡を原曲としている事実や、当初はフルサイズ化の予定すらなかったCM制作の舞台裏を知る人は意外に多くありません。音楽業界関係者への取材や当時の制作記録を振り返ると、そこには過密なスケジュールの中で生まれた奇跡的な巡り合わせと、緻密な計算がありました。本稿では、原曲のルーツから歌詞に秘められたメッセージ、ギター譜としての親しみやすさ、そして自主レーベル「1CHANCE RECORDS」で躍進を続ける2026年最新のWANIMAの現在地までを徹底解剖します。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】- 要点1:原曲はイギリス民謡をルーツとする名作童謡「ピクニック」であり、CMプランナー篠原誠氏の詞とWANIMAの高速パンクアレンジの融合で誕生。
- 要点2:当初は正月CM限定の短尺企画だったが、視聴者の熱烈な要望を受けて2017年3月8日に急遽配信開始、翌年発売の代表作『Juice』へ収録された。
- 要点3:失敗を恐れる心理的重圧を解き放つ「応援歌」として教育現場やギター初心者に定着し、自主運営を深める2026年現在もバンドの金字塔として輝き続ける。
【原曲の正体】童謡「ピクニック」はいかにして爆音ロックへと昇華されたのか
「この曲、どこかで聴いたことがある」――CM放映当初、多くのリスナーが抱いた既視感の正体は、誰もが幼少期に口ずさんだ童謡「ピクニック」(「丘を越え行こうよ 口笛吹きつつ」)です。
音楽史的な背景を辿ると、このメロディの原点は19世紀アメリカやイギリスの伝承民謡「She'll Be Coming 'Round the Mountain(彼女は山を越えてやって来る)」に遡ります。日本ではNHK『みんなのうた』などを通じて萩原英一氏の訳詞による「ピクニック」として定着し、春の行楽や遠足を象徴する定番曲として歌い継がれてきました。
au三太郎CMを手がけるクリエイティブディレクターの篠原誠氏は、CMシリーズのテーマである「伝統とおかしみの融合」を音楽でも体現するため、パブリックドメインであるこのトラディショナル・ソングに着目しました。誰もが旋律を記憶している童謡を、当時インディーズから怒涛の勢いで頭角を現していたWANIMAのメロディック・パンクで再構築するという試みは、広告界・音楽界の双方にとって極めて刺激的な挑戦でした。
KENTA(Vo/Ba)の突き抜けるハイトーンボイスとKO-SHIN(Gt/Cho)の軽快なカッティング、FUJI(Dr/Cho)のタイトなツービートが合流した瞬間、のどかな童謡は全身の血が沸き立つ青春パンクロックへと完全な変貌を遂げました。既存の安心感とエッジの効いた攻撃性が同居するこのアプローチこそが、世代を超えて受け入れられた最大の要因です。
【制作秘話の真相】60秒のタイアップからアルバム『Juice』の主役へ
現在では公式MVの再生回数が数千万回を数え、バンドを代表するアンセムとなった「やってみよう」ですが、当初は正月のスポットCM(60秒枠など)限定の企画に過ぎませんでした。制作当時のバンド関係者やレコード会社周辺の証言によると、当初からフルサイズ音源のリリースが確約されていたわけではありませんでした。
転機となったのは、2017年1月1日のCMオンエア直後から巻き起こった視聴者からの爆発的な反響です。「元旦から元気が出た」「フルコーラスで聴きたい」「CD化の予定はないのか」という問い合わせがKDDIおよびレコード会社に殺到。この世論の熱狂を受け止める形で急遽スタジオに入り、フルバージョンのアレンジと追加レコーディングが進められました。
そして同年2017年3月8日、待望の配信限定シングルとして正式リリースを果たすと、iTunesをはじめとする各音楽配信チャートで軒並み首位を独占。勢いそのままに、2018年1月17日にリリースされた記念碑的メジャー1stフルアルバム『Juice』の堂々たる中核トラックとして収録されるに至りました。
YouTubeで公開された公式フルMVでは、メンバー3人が泥だらけになりながら様々なスポーツや遊びに体当たりで挑戦する姿が描かれ、「飾らない泥臭さ」というWANIMAのアイデンティティを視覚的にも決定づける作品となりました。