ファンの間でも最大の関心事である「なぜ年齢を重ねてもあのハイトーンを維持できるのか」という疑問。その秘密は、徹底的に体系化された喉のケアとアスリート並みのストイックさにあります。
稲葉氏の喉に対する配慮は、音楽業界内でも伝説として語り継がれています。有名なのが室内の湿度管理です。乾燥を徹底して避けるため、夏場のツアー中であっても滞在先ホテルの冷房は極力つけず、窓の隙間を目張りしてまで湿度を50〜60%以上に保つ工夫を施してきました。さらに、日常的に温かいハーブティーを携帯し、冷たい飲み物を一切口にしないなど、声帯を冷やさない習慣が何十年にもわたり徹底されています。
しかし、現在の完璧に見える歌唱法は、順風満帆な道のりだけで培われたものではありません。かつて2000年代初頭のポリープ手術危機や、2018年の「B'z LIVE-GYM Pleasure 2018 -HINOTORI-」日産スタジアム公演で見られた喉の不調など、声が出なくなる絶望的な瞬間に何度も直面してきました。
当時のインタビューや特番の密着ドキュメンタリーで、稲葉氏は「声が出ない悪夢を何度も見る」と率直に告白しています。そうした危機を乗り越えるため、発声器官の構造を医学的・科学的に学び直し、喉への負担を最小限に抑えつつ共鳴腔を最大限に響かせる「発声フォームの再構築」を敢行しました。力任せのシャウトから、脱力と体幹の連動による効率的な発声へのシフトこそが、60代を迎えた今もトップトーンを鳴らし続けられる決定的な要因です。