有吉佐和子の凄みは、社会問題だけに留まらない。彼女の文筆活動の骨格をなしていたのは、骨の折れるような取材と、圧倒的な知識の蓄積だ。『華岡青洲の妻』や『紀ノ川』に代表される歴史・時代小説群では、紀州の風土や封建的な家制度のなかで抗い、生き抜いた女性たちの美しさと逞しさを描き出した。
歌舞伎や文楽といった伝統芸能に対する造詣の深さも群を抜いていた。『連舞』や『三ババ』などで見せる芸の真髄への肉薄は、単なる趣味の領域を完全に逸脱している。背景にあるのは「人間が歴史や文化をどう繋いできたか」という深い洞察だ。膨大な文献調査とフィールドワークに裏打ちされた描写があるからこそ、彼女の創り出す登場人物たちは、時代を超えて生き生きと脈動し続ける。