1992年に開催されたバルセロナオリンピック男子マラソンは、強烈な日差しと高い湿度が選手たちの体力を奪う過酷なレースだった。各国の精鋭がひしめき合うなか、給水所はボトルを確保しようとする走者が密集する危険地帯と化していた。
集団のペースが僅かに揺らいだ瞬間、後方の選手と足が交錯。前のめりに倒れ込んだ谷口は、膝と手足を強く打ちつけた。シューズを履き直すために費やした時間は十数秒。だが、長距離走のトップ争いにおいて、一度途切れたリズムと消費したエネルギーは致命的なダメージとなった。心拍数は一気に跳ね上がり、緻密に組み立てていたレースプランは破綻を余儀なくされた。