ファンから「ワニ先生」の愛称で親しまれる吾峠氏は、作品が記録的な大ブームを巻き起こした時期であっても表舞台に姿を現すことはなかった。各種授賞式や記念イベントにおいても登壇を避け、直筆のコメントやイラストを寄せるスタイルを一貫して貫いている。
徹底したメディア露出の拒否は、プライベートの静穏を守る実用的な目的だけではない。表現者自身についての情報が先入観として先行することを防ぎ、読者には純粋に物語の持つエネルギーと向き合ってほしいというクリエイターとしての強い美学のあらわれと言える。過度な狂騒から一線を画し、穏やかな日常のなかで創作へ没頭する姿勢こそが、あの濃密な物語世界を創り出す源泉となった。