会津さざえ堂を巡っては、インターネット上や観光ガイドでいくつかの誤解や都市伝説が流通しています。ここでは客観的な史料と建築史の観点から、それらの真偽を検証します。
誤解1:レオナルド・ダ・ヴィンチのスケッチを模倣したという説
世界的な二重螺旋階段といえば、フランスのシャンボール城にあるレオナルド・ダ・ヴィンチ設計とされる階段が有名です。そのためネット上では「郁堂上人は蘭書を通じてダ・ヴィンチの設計図を見て真似たのではないか」という説がまことしやかに語られます。しかし、日本建築史の専門的な調査において、郁堂上人が直接的に西洋の二重螺旋図面を入手したという確たる証拠は発見されていません。栄螺(サザエ)の巻き貝の自然形状からの着想や、禅宗寺院の回廊建築の発展形として独自に考案された可能性が極めて高く、安易な西洋模倣説で片付けるのは、当時の日本大工集団の卓越した規矩術(きくじゅつ:木工の幾何学計算法)を過小評価することになりかねません。
誤解2:「さざえ堂」と呼ばれる建物は日本全国でここだけという誤認
二重螺旋の特異性から「唯一無二」と称されますが、正確には「木造の二重螺旋スロープ構造として世界唯一」です。江戸時代後期に関東から東北にかけて、内部を螺旋状に巡らせる「さざえ堂(三匝堂)」は複数建設されました。現在でも群馬県太田市の曹源寺や埼玉県本庄市の成身院などにさざえ堂が現存しています。ただし、他地域の現存例は階段構造であったり、平面プランが異なっていたりします。「傾斜スロープのみで構成された純粋な六角二重螺旋建築」という極限の形状を現在に残しているのは、紛れもなく会津若松の円通三匝堂のみです。