日常の文字表記がデジタルデバイスへ移行した現代において、手書きの機会は冠婚葬祭の芳名帳、公的書類の記入、のし袋、年賀状などに限られつつあります。その結果、漢字を「視覚的な記号」として全体認識する傾向が強まり、部分ごとの筆順順序の抜け落ちが顕著化しています。
実務現場や教育現場におけるヒアリング調査でも、「越谷」「越後」「越前」といった地名や「年越し」「越境」といった熟語を書く際、実に成人の約6割〜7割が『走を後から書く』『戉の点が何画目かわからない』という認識の揺らぎを抱えている実態が浮き彫りになっています。
知恵袋やSNSなどの手書きコミュニティでも、「子どもの漢字ドリルを見て初めて自分の筆順が逆だったことに気づいた」「人前でサインするときに走を後から書いて恥をかいた」という生の声が後を絶ちません。この誤認は決して個人の学力不足ではなく、前述した「しんにょう優位の記憶バイアス」が引き起こす極めて自然な認知エラーといえます。