日本のタクシーに自動ドアが導入された経緯を紐解くと、昭和30年代(1950年代後半)にまで遡ります。当時、大手タクシー会社である東京オートドア(旧トンボ交通)などが開発に着手した背景には、単なる利便性の追求ではなく、切実な「安全確保」の課題がありました。
当時の日本はモータリゼーションの黎明期であり、乗客がドアを半ドアのまま発進して転落する事故や、走行中にドアが突然開いてしまうトラブルが頻発していました。また、降車時に乗客が車道側に降りて後方車両と接触する事故、さらには運賃を踏み倒して逃走する乗客への防犯対策として、「運転手が確実に後部左側ドアの開閉を制御する仕組み」が求められたのです。
この技術が一気に全国標準へと駆け上がった決定打が、1964年東京オリンピックの開催でした。世界中から訪れる外国人客を迎え入れるにあたり、日本のおもてなし精神(ホスピタリティ)を具現化する設備として業界全体で採用が推進され、わずか数年で日本のタクシーの標準仕様として定着しました。