テレビカメラの前から離れた約5年間、西島秀俊は生活のすべてを映画に捧げる日々を送ります。当時のインタビューや手記において、彼は「毎日映画館に通い詰め、名画座で朝から晩まで年間数百本もの映画を貪るように観ていた」と回顧しています。決して華やかな表舞台ではありませんでしたが、この潜伏期間こそが表現者としての土台を徹底的に鍛え上げる時間となりました。
そのストイックな姿勢は、日本映画界の気鋭の監督たちの目に留まります。黒沢清監督の映画『ニンゲン合格』(1999年)で映画初主演を果たすと、10年間の昏睡状態から目覚めた青年という難役を演じ切り、第9回日本映画プロフェッショナル大賞主演男優賞を受賞。さらに諏訪敦彦監督の『M/OTHER』(1999年)など、台本なしの即興演出が求められる先鋭的なアートフィルムにも果敢に挑戦しました。
そして2002年、彼の評価を国際的なものへと決定づけたのが、北野武監督の映画『Dolls(ドールズ)』への主演抜擢です。
山本耀司が手掛けた鮮烈な衣装を纏い、菅野美穂とともに「赤い麻縄で繋がれたまま彷徨う男」を演じた西島秀俊の演技は、ヴェネツィア国際映画祭をはじめ世界各国の批評家から絶賛を浴びました。テレビのトレンディドラマで消費されることを拒み、映画の世界で愚直に研鑽を積んだ努力が、名実ともに「本格派国際俳優」として結実した瞬間でした。