英語圏の報道界において、「自爆テロ」の呼称を巡っては過去に激しい議論が存在しました。代表的なものがhomicide bombing(殺人爆破テロ)という造語を巡る論争です。
2000年代初頭、米国の保守派メディアや一部の政府関係者は、「自爆(suicide)という言葉を使うと、犯人が殉教者であるかのような印象を与えたり、個人の絶望による自殺と同列に見えたりする恐れがある。本質は無辜の市民を狙った大量殺人(homicide)である」と主張し、homicide bombingという呼称を積極的に推進しました。米FOXニュースなどが一時的にこの呼称を採用したことは、メディア研究者の間でも広く知られています。
しかし、AP通信やロイター、BBC、ニューヨーク・タイムズなどの主要国際メディアはこの方針に追従しませんでした。その理由は主に以下の2点にあります。
- 記述的正確性の欠如:単に「殺人爆破(homicide bombing)」と呼ぶと、犯人が現場で自らの命を絶ったのか、遠隔操作で爆破して逃走したのかという「戦術的特徴」が伝わらなくなる。
- ジャーナリズムの中立性規範:道徳的非難を込めた言葉遣いよりも、攻撃の手法を客観的・事実に基づいて伝えることが通信社の最大の使命である。
結果として、現在でも国際標準の報道用語としてはsuicide bombingが圧倒的な支持を維持し続けています。言葉の背景にある思想的・政治的な文脈を理解することは、英語ニュースを立体的に読み解く上で欠かせない視点です。