二人の間に2012年9月に誕生した長男・寺島眞秀(まほろ)くんは、夫妻の生き方を体現する最大の結晶と言えます。2017年5月に初お目見得を果たし、2026年5月の歌舞伎座「團菊祭五月大歌舞伎」にて初代・尾上眞秀を名乗り初舞台を踏んだ快挙は、歌舞伎史に刻まれる出来事となりました。
日仏のハーフとして史上初めて歌舞伎の名跡を襲名する道は、決して平坦ではありませんでした。伝統芸能の世界では「血統」と「しきたり」が重んじられる中、寺島しのぶ自身が「女性であるために歌舞伎の舞台に立てなかった」という宿命を背負っていたからです。その母の無念を晴らすかのように歌舞伎の道へ進む眞秀くんを、父ローラン氏は独特のスタンスで見守り続けています。
フランス人であるローラン氏は、日本の封建的な「跡取り教育」を押し付けることはしませんでした。自らの意思で「歌舞伎をやりたい」と言い出した息子の自主性を何よりも尊重し、舞台に立つ前の緊張をほぐすためフランス流のハグと言葉で抱きしめるなど、メンタル面での絶対的な避難場所となっています。東京都内の一軒家で営まれる家族の暮らしは、フランス製のアートに囲まれ、食卓には和食とフレンチが並ぶなど、二つの文化が美しく調和しています。