扉を開けた瞬間に鼻腔をくすぐるクミンとカルダモンの香り。厨房の奥を覗くと、赤く燃え盛るタンドール窯へ長い鉄串を巧みに差し込むシェフの引き締まった横顔が見えます。日本インド料理協会の関係者が語るように、現在日本で腕を振るうトップクラスの職人たちは、現地の一流ホテルや老舗で長年研鑽を積んだ実力派ばかりです。
彼らが仕込むカレーは、市販のルーとは根本から構造が異なります。玉ねぎを飴色になるまでじっくり炒めてベースを作り、ホールスパイスの香りを油に移す「テンパリング」と呼ばれる技法をミリ秒単位で見極める。肉の部位ごとに漬け込むヨーグルトとマサラの配合を変え、炭火の遠赤外線で肉汁を閉じ込めるタンドールチキンは、一口噛めばジューシーな旨味が口いっぱいに弾けます。メディアに大々的に露出していなくとも、職人の確かな技術が息づく路地裏の名店には、本物の味を知る常連客が夜な夜な吸い寄せられているのです。