入江美樹の人生を語る上で欠かせないのが、少女時代から培われた類まれな資質と国際感覚です。彼女の本名は小澤ベラ(旧姓:入江)。ロシア人の父親と日本人の母親の間に生まれ、日本人離れした彫りの深い顔立ちと、スラリと伸びた手足、圧倒的な存在感を放っていました。
1960年代初頭、モデルとしてデビューするやいなや瞬く間にファッション界の頂点へと駆け上がります。1964年、世界各国のトップモデルが一堂に会した第1回インターナショナル・ファッション・フェスティバルにおいて、見事世界一のモデルに贈られる「エトワール・ド・モデル」を受賞。これは当時のアジア人モデルとして極めて画期的な快挙であり、彼女の洗練された佇まいはパリやニューヨークのモード関係者をも唸らせました。さらに1966年には、安部公房原作・勅使河原宏監督の前衛映画『他人の顔』にも出演するなど、表現者としての才能を遺憾なく発揮していました。
しかし、1968年、新進気鋭の指揮者として世界に挑んでいた小澤征爾氏との結婚を機に、彼女は一切の未練を見せることなく華々しいキャリアを捨て、家庭へと入ります。世界の檜舞台で戦う夫を支えるため、自らは完全に黒子に徹する道を選んだのです。この「引き際の鮮やかさ」と「覚悟の強さ」こそが、彼女が生涯を通じて崩さなかった気高き美学の根源と言えます。
子育てが一段落した後は、自身の本名を冠したセレクトブランド「THE BELLA STORE(ベラ)」などを立ち上げ、上質なリネンを用いたエプロンや室内着など、機能性と美しさを兼ね備えたライフスタイルウェアを提案しました。決して商業主義に走らず、自分が本当に愛せるものだけを世に送り出す姿勢は、多くの大人の女性から熱烈な支持を集めました。