トトロ都市伝説の中でも、ひときわ陰鬱なトーンを持つのが「狭山事件モデル説」です。昭和38年(1963年)5月に埼玉県狭山市で発生した女子高生誘拐殺人事件と、本作の舞台設定に奇妙な暗合があるとして、ネット掲示板を中心に拡散されました。
都市伝説信奉者が挙げた根拠は以下の通りです:
- 舞台が同じ埼玉県(所沢市・狭山丘陵周辺)であること
- 事件発生が5月であり、姉妹の名前が「サツキ(皐月=5月)」と「メイ(May=5月)」であること
- 七国山病院のモデルとされる「八国山」周辺に実在した結核療養所
- 「妹を探す姉」の構図が事件の報道を想起させること
しかし、歴史的背景を丁寧に精査すれば、これらが偶発的な共通項を無理に結びつけた「認知の歪み」であることは明白です。宮崎駿監督が所沢・狭山丘陵を舞台に選んだのは、自身が昭和40年代から所沢に居を構え、自らの愛着ある散策ルートや保全活動に関わってきた「トトロの森」の原風景をそのまま舞台にしたからです。
また、「サツキ」と「メイ」という名前の由来は、初期の企画段階で主人公が「1人の女の子」だった名残です。映画『火垂るの墓』との同時上映が決定した際、尺を合わせるために主人公を姉妹の2人に分割した経緯があり、どちらも「5月」を意味する名前に揃えたという作劇上の都合によるものです。猟奇事件のオマージュなどではなく、制作上の純粋な変更プロセスが一次資料によって証明されています。