「物」の書き順を間違えてしまう根本的な原因は、小学校2年生で先に習う単体の漢字「牛」の筆順が脳内に強く刷り込まれている点にあります。
単体の「牛」は「左払い → 上の横棒 → 下の横棒 → 縦棒」という順序で書きます。つまり、横棒を2本書き終えてから最後の4画目に縦棒を貫く構造です。しかし、漢字の構成要素である「偏(へん)」に変化した瞬間、この法則は劇的に変化します。
なぜ部首になると書き順が変わるのかといえば、書道の歴史と身体動作の合理性に理由があります。漢字の筆順は千年以上におよぶ楷書や行書の歴史の中で、「最も無駄な手の動きがなく、流れるように美しく書ける動線」として洗練されてきました。
偏の最後の画を「左下から右上へのハネ上げ(提)」にすることで、ペン先が自然と右側の旁の第1画目(5画目の位置)へ誘導されます。もし単体の牛のように最後に縦棒を下ろしてしまうと、ペン先が左下に残ってしまい、右上の旁へ戻るために不自然な遠回りの空中移動が発生します。この「筆脈の連結」こそが、筆順ルールの核心です。