山岸一雄は1934年(昭和9年)4月28日、長野県下高井郡山ノ内町で生まれました。若くして上京し、従兄である坂口正安氏が立ち上げた「中野大勝軒」で修行を開始。1955年(昭和30年)、賄いとして残ったスープに冷水で締めた麺を浸して食べていた光景から着想を得て、メニュー化されたのが現在に続く「特製もりそば」でした。
当時、ラーメンの麺をわざわざ冷やしてタレにつけて食べるという発想は前代未聞でした。当初は周囲の料理人から異端扱いされたものの、1961年(昭和36年)に独立して開業した「東池袋大勝軒」において、その独特な甘辛酸スープともちもちの自家製多加水極太麺は瞬く間に労働者や学生の心を掴みました。
東池袋の旧店舗は、わずかカウンター十数席の小さな空間でした。開店前から毎日100人を超える長蛇の列ができ、山岸は毎朝4時から仕込みを行い、麺を打ち、笑顔で客を迎える日々を何十年も続けました。自著や手記『人生の勝負は後半にあり』などで語られている通り、「美味しかったよの一言が聞きたくて、ただそれだけで厨房に立ち続けた」という純粋な職人魂が、のちのラーメン界の礎となったのです。