『タッチ』という作品の根底にあるのは、「誰かのために強くなる」という人間の情愛です。達也と佐々木の関係は、恋愛やライバル関係とは異なる「兄貴分と弟分」の精神的交流として描かれています。
柏葉監督の苛烈なシゴキに耐え抜いた佐々木と達也の鼓舞
佐々木を語る上で欠かせない名シーンが、柏葉監督代行による容赦のないノック練習です。ミスをすれば罵声を浴びせられ、泥だらけになって立ち上がれなくなる佐々木に対し、周囲の部員も疲弊して声をかけられない極限状態に陥ります。
その際、上杉達也は監督に正面から反発して暴力を振るうような短絡的な行動は取りません。自らも過酷な投球練習をこなしながら、佐々木が倒れそうになると黙ってボールを拾い上げ、さりげなく立ち上がる時間を作ったり、練習後に「お前、よく逃げなかったな」と短く声をかけたりします。このあだち充独特の間(ま)と抑制された優しさが、佐々木にとってどれほどの救いになったかは計り知れません。
自分自身も「和也の身代わり」という重圧に押しつぶされそうになっていた達也が、佐々木のような無力な後輩を気遣うことで、自らの内面にある責任感とリーダーシップを確立していったプロセスは、作品屈指の感動的な人間ドラマです。